マジョリカ・マジョルカ


「きれいな色だよね」

 ――ずっと思ってたの。
ぱらぱら、宙でいくつもの粒子がひかりに反射してまるで流れ星のように落ちていく、そんな幻想的な景色をゆっくりと目で追っていた。信じられないけれど、それは元々俺の一部だったもので。不思議だな、ふと呟けば上からなにがと声に笑いを含みながらハルカが訪ねた。凛としたソプラノの声。(例えるならそう、小鳥のさえずりみたいな)なんだか俺の髪じゃ、ないみたいだ。
 大分伸びてきた己の髪の毛を切りに行こうと思っていたら、ハルカがそんな俺の髪を切りたいと言い出した。別に断る理由もなかったので成すがままにされていたのだけれど、普段ポケモンたちの手入れをしているからかハルカの手付きは中々のものだった。結構おっちょこちょいだと思ってたから、意外だな。言ったら眉をきゅっと上げて怒りそうだから、言わないけど。
 想像したらあまりにも簡単に想像出来てしまったから、思わず口元が緩んだ。シャキ、シャキン、一定のリズムと共に心地よい音が鼓膜を擽る。
 ハルカの手のひらは、本当に不思議で。以前二人でふざけて俺の右手とハルカの左手、重ねてみたら、俺の手のひらよりも一回りも二回りも小さかったことに吃驚したことをよく覚えている。けれど今俺の髪を撫でているハルカの手のひらは、なんだかそんなことを感じさせないくらいに大きくて温かな感じがした。なんだか、母さんの手みたいだと思った。
 おんなのこ全員がそうなのか、それともハルカがそうなのか、それは俺にも、わからなかったけれど。

「――はい、終わり。お疲れさま、ユウキくん」

 ばさり、と首元にかけられていたタオルが外されてなんとなく解放感。鏡に映る少年は少しだけ短くなった髪に手を添えて、照れたように笑っていた。

「…お、結構まともじゃん。サンキュー、ハルカ」
「まともって…もう、なにそれ」

 一応コーディネーターですから。ふわりと微笑んで、けれどその表情とは裏腹に拗ねた振りをするような口調に、思わず笑ってしまった。
 それから床に散らばった先ほどまで俺の髪、だったものに目を向ければ、そんな俺の視線に気付いたのかハルカが悪戯に笑う。星屑みたいでしょ、返事は簡単に見つかった。それを口にするのには少しだけ勇気がいたけれどハルカのきらきらした笑顔につられて俺の顔も自然に笑顔に変わってしまうんだ。こんなこと、他のやつらが聞いたら夢の見過ぎだって嘲笑うかもしれない。けれど、それでも良いと思った。


「そうだな、星屑みたいだ」


 隣で星のように笑う君の笑顔があれば、それだけで。





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